日本企業との交渉の進め方:根回し・稟議と「検討します」の読み方
すばやく率直に条件を詰めていく交渉に慣れている海外のビジネスパーソンにとって、日本企業との交渉は時間がかかり、相手の本音が読みにくいと感じられがちです。しかし、社内でどのように意思決定が進むのかを知れば、その流れには理由があることがわかります。なお、進め方は会社や業界、世代によって大きく異なるため、ここで紹介するのはよくある傾向であり、決まったルールではありません。海外の取引先と交渉する日本企業の方にも、相手に自社の進め方を説明する際の参考にしていただけます。
合意は表に出る前に作られる
多くの日本企業では、取引は交渉の席にいる一人が決めるのではなく、関係する部署の間で少しずつ合意を積み上げて決まります。よく知られているのが次の二つです。
- 根回し:正式な提案の前に、関係者と個別に非公式な相談をしておき、懸念を早めに出して解消しておくこと。
- 稟議:提案書を回覧し、関係する管理職の承認を得ていく正式な手続き。現在は社内システムで行う会社も多く、必要な承認の数は会社や案件の規模によって異なります。
相手側から見ると、本当の聞き手には、一度も会わない人も含まれているということです。窓口の担当者は、こちらの提案を社内で説明し、守る役割を担っています。その仕事をしやすくすることが、交渉を前に進める近道です。
- 提案は書面で。構成をわかりやすくし、各数字や条件の根拠も添えます。
- 想定される質問に先回りする。経理、法務、技術などの部署から出そうな疑問に、資料の中で答えておきます。
- 社内の流れを尋ねる。「ほかにどなたが確認されますか。どんな情報があると助かりますか」と聞くのは、失礼ではなく有益な質問です。
スケジュールには余裕を
組織全体で合意を作るため、特に初期の段階は予想より時間がかかることがあります。すぐに答えを求めても早まることは少なく、かえって信頼を損ないかねません。
- 自社の計画に、現実的な準備期間を組み込んでおく。
- こちらで期限を決めるより、次の社内検討がいつごろになりそうかを尋ねる。
- 日本では4月から3月を事業年度とする会社が多く、予算や時期に影響することがあります。ただし思い込まず、相手の会社の決算期を確認しましょう。
- すでに合意した点を蒸し返さない。後から条件を変えると、承認の手続きを一からやり直すことになりかねません。
その代わり、いったん決まれば、関係者がすでに納得しているため、実行は丁寧に進むことが多いのも特徴です。
遠回しな返事を読み取る
日本のビジネスでは、特に対面の場で、はっきり「いいえ」と言うのを避ける傾向があります。断りや迷いはやわらかく伝えられ、その意味は口調や文脈によって変わります。よく使われる表現をまとめました。
| 表現 | 海外の相手が受け取りがちな意味 | 実際に含まれやすい意味 |
|---|---|---|
| 検討します | 前向きに考えてくれる | 社内で相談が必要。ためらいを丁寧に伝えている場合もある。 |
| 前向きに検討します | ほぼ決まった | 本当に関心はあるが、まだ約束ではない。 |
| 持ち帰って検討させてください | 考える時間がほしいだけ | その場にいる人だけでは決められない。 |
| それはちょっと… | 少し迷っている | やわらかいが、かなりはっきりした反対。 |
| 難しいです | もう少し頑張ればできる | 丁寧な断りであることが多い。 |
ひとつの表現だけで判断しすぎないことも大切です。迷ったときは、提案のどの部分が気になるかを、相手が答えやすい形で尋ねてみましょう。大人数の会議よりも、後日メールや個別のやり取りのほうが率直に話してもらえることもあります。また、沈黙は反対ではなく、考えている時間であることも多いものです。
取引を支えるのは関係づくり
多くの日本企業は、よく知っていて信頼できる相手と長く付き合うことを好みます。
- 担当者をなるべく変えない。窓口が頻繁に変わると、信頼を一から築き直すことになります。
- 一貫性を保つ。言ったことは実行し、変更があれば早めに伝えます。
- 正式な場以外の時間も大切に。食事や雑談の中で本当の懸念が出てくることもあります。どの程度の付き合いが求められるかは、相手に合わせましょう。
- 強引な売り込みを避ける。強い圧力や最後通告は、日本の取引先を慎重にさせることがほとんどです。
すべて書面で確認する
話し合いのたびに、合意した点、未決の点、誰がいつまでに何をするかを簡潔にまとめて送りましょう。相手が社内で共有しやすくなり、行き違いにも早く気づけます。契約については両国の法律に詳しい専門家に相談し、日本語版と英語版の両方で締結する場合は、どちらの言語を優先するかも確認しておきます。翻訳を依頼する際の準備は日英翻訳のチェックリストをご覧ください。
通訳を活用する
交渉の場での通訳は、単なる便利な存在ではありません。毎回の交渉の前に、目的、慎重に扱うべき点、重要な用語を伝え、資料も事前に送っておきます。相手側の通訳に頼るのではなく自分たちの通訳を用意すれば、会議のあとに口調やニュアンスについても教えてもらえます。話すときは短く区切り、慣用句や冗談は避け、通訳ではなく相手の顔を見て話しましょう。
交渉の背景にある日本語を学ぶ
交渉を成功させるのに流暢な日本語は必要ありませんが、丁寧な表現を理解し、「検討します」に込められたニュアンスを聞き分けられることは大きな強みになります。Hanabuddiesのネイティブ講師は、ビジネス会話や仕事で使う敬語を、受講者の状況に合わせたオンラインレッスンで一緒に練習します。提案書や交渉後のメールの日英翻訳もお手伝いしています。